大阪高等裁判所 平成8年(ネ)2013号 判決 1998年9月25日
控訴人
BY
右法定代理人親権者
BM
右訴訟代理人弁護士
雪田樹理
同
越尾邦仁
同
真継寛子
同
寺沢勝子
同
島尾恵理
同
小山操子
被控訴人
国
右代表者法務大臣
中村正三郎
右指定代理人
黒田純江
外六名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 申立て
(控訴人)
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が日本国籍を有することを確認する。
三 被控訴人は控訴人に対し、金五〇万円を支払え。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
五 仮執行の宣言
(被控訴人)
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、日本国民である甲山春男(以下「甲山」という。)によって、出生後認知された控訴人が、日本国籍を取得しているとして、被控訴人に対し日本国籍を有することの確認を求めるとともに、被控訴人が控訴人に日本国籍を認めないことから、控訴人が日本国民として当然受けられるべき保護や権利の享受ができなかったとして、被控訴人に対し不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を求めた事案である。
一 前提事実
1 法令関係
(一) 国籍法の沿革
昭和二五年の法改正前の国籍法(明治三二年法律第六六号。以下「旧法」という。)では、「子は、出生の時その父が日本人であるときはこれを日本人とする」とされ(一条前段)、父系血統主義が採用されており、また、「未成年者の子が日本人である父又は母によって認知されたときには日本国籍を取得する」との規定(五条三号、六条一号)が置かれていて、認知による国籍取得が認められていた。
新憲法の制定に伴って昭和二五年に制定された新国籍法(昭和二五年法律第一四七号。以下「新法」という。)は、旧法の父系血統主義は踏襲したが、右の認知による国籍取得の規定は全面的に削除した。
新法は、昭和五九年に大改正された(昭和五九年法律第四五号による改正。以下、この改正後の新法を「現行法」という。)。これによると、「子は、出生の時に父又は母が日本国民であるときは日本国民とする」として(二条一号)、従来の父系血統主義を改めて、新たに父母両系血統主義が採用され、同時に準正による国籍取得の規定(三条)が新設された。同条によると、「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した二〇歳未満の子は、認知をした父又は母が日本国民であるときは、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得することができる」ものとされている。
(二) 現行法の解釈
前記のとおり、現行法二条一号は、子が日本国民となる場合として、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」と規定しているが、ここにいう「父又は母」とは、法律上の「父又は母」をいうものと解される。
そして、嫡出子の場合には、父又は母の一方が日本国民であれば、法例一七条により夫婦の一方の本国法である日本法が準拠法となるから、嫡出の推定の規定(民法七七二条)によって、出生により法律上の父子関係又は母子関係が成立し、これにより子は日本国籍を取得する。
一方、非嫡出子の場合には、父又は母との間の各親子関係については、それぞれ父又は母の本国法によって定められることになる(法例一八条一項)。したがって、まず、外国人父と日本人母との間の子については、母の本国法である日本法によると、原則として出生により当然に(認知を要することなく)母子関係が生ずると解されているから、子は出生により日本国籍を取得することになる。これに対し、本件のように、日本人父と外国人母との間の子については、父の本国法である日本法によると、法律上の父子関係が成立するためには認知が必要とされているから、出生のみによって日本国籍を取得する余地はない。
2 争いのない事実
(一) 控訴人は、平成四年六月二一日、日本国民である甲山とフィリピン国籍を有するBM(以下「M」という。)の子として出生した(甲一)。なお、控訴人は、出生によりフィリピン国籍を取得している。
(二) 甲山は、平成七年四月一二日、控訴人を認知する届出をなした。
(三) 甲山は、平成六年一一月一一日、同じくMとの子である、控訴人の妹甲山夏子を胎児認知し、甲山夏子は同月一二日出生した(甲一)。なお、甲山夏子は、日本国籍を取得している。
(四) 被控訴人は控訴人の日本国籍の取得を争っている。
二 控訴人の主張
1 民法上認知の効果は出生の時にさかのぼってその効力を生じるのであるから(民法七八四条本文)、国籍法上も同様に解すべきである。そうすると、控訴人は、出生の時に父が日本国民であるから、日本国籍を取得している。
2 認知の効果が国籍法上さかのぼらないと解釈すると、父の認知があっても出生の時に父が日本国民ではないことになり、現行法二条一号の規定の適用はなく、したがって、子は日本国籍を取得し得ない結果となる。このような結果をもたらす解釈は、以下のとおり、憲法一四条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)二四条、児童の権利に関する条約(以下「児童条約」という。)二条及び七条に違反する。
(一) 子にとって、出生の時に父母が婚姻しているか否かは全く偶然のことにすぎず、個人の意思や努力によっていかんともしがたい性質のものである。このような嫡出子であるか非嫡出子であるかによる差別は、憲法一四条一項にいう「社会的身分」による差別にあたり許されないばかりか、出生による子の差別を禁止したB規約二四条一項、三項、児童条約二条一項、七条に反する。
(二) また、胎内にある子は、日本国民である父から認知されることにより、出生の時には父との間に法律上の父子関係にあるから日本国籍を取得することになる。そうすると、出生後認知に遡及効を認めない解釈を採ると、非嫡出子間でも、認知が出生の前か後かによって、国籍の取得に差異を生ずることになり、この点からも右解釈は憲法一四条に反する。
また、国籍法上認知の効果をさかのぼらせない解釈は、現行法上も合理性がない。すなわち、
(1) 国籍の浮動性の防止について
国籍が浮動であることによって具体的な弊害は生じないし、もし生ずるのであれば、民法七八四条但書の準用ないし類推適用で十分防止しうる。
現に、被控訴人も、日本人父と外国人母の間に嫡出子として出生した子どもについて、後に嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴えによって嫡出性を喪失すれば、その子どもの出生の時期に遡って日本国籍を喪失させる取り扱いを行っている。これは、被控訴人自らが、国籍の浮動性を認容していることに他ならない。
(2) 二重国籍の防止について
現行法は父母両系血統主義を採用しており、少なくとも嫡出子に関しては、異国籍の父母から生まれた子は父母双方の国籍を有することが認められており、また、国籍留保の制度が採用されており、重国籍になる機会を与えているとともに、二二歳までに国籍選択を行う、すなわち、重国籍は事後的に解消するという立場を採っているほか、ヨーロッパ諸国では重国籍を容認する方向の法改正を行っているのであるから、二重国籍の防止は認知による国籍の取得を否定する理由とはならない。また、二重国籍防止の趣旨とされる、複数の国からの徴兵義務の履行については、日本に徴兵義務はないので問題にはならないし、また、外交的保護の問題も、その者が第三国にいる場合には、最も密接な関係のある本国が外交的保護を行使できるという「実効的国籍」の理論により解決されるのであるから、このような複数国により徴兵義務を課せられる不都合さや外交的保護の困難さを理由に、認知による国籍の取得を否定し得ない。
結局のところ、被控訴人の主張は、重国籍防止を達成するためには、非嫡出子を差別することが許されるということを述べているにすぎず、他の差別的でない方法によっても同様の結果を招来することが可能であるにもかかわらず、殊更憲法及び条約に違反する差別的解釈を採用することに何らの合理性はなく、明らかに立法裁量の範囲を逸脱しているとしかいいようがない。
(3) 親子の実質的結合関係の差異について
被控訴人は、日本国籍付与に関し、嫡出子と非嫡出子を、また、非嫡出子相互間では胎児認知されているか生後認知かにより別異に取り扱うことの合理的根拠として「親子の実質的結合関係」という概念を主張するが、右概念は、単に、非嫡出子を非嫡出子であるが故に嫡出子と別異に取り扱い、胎児認知か生後認知かという形式的事象により非嫡出子相互間でも別異に取り扱うという意味しかない概念であることが明らかである。非嫡出子に嫡出子と同様の「実質的」親子関係がないといえるのは、非嫡出子が嫡出子ではないからだと述べるトートロジーにすぎない。被控訴人は、非嫡出子に対する差別思想に基づき非嫡出子を差別している事実を隠蔽するために「実質的」との言葉を使っているにすぎない。
① 氏及び親権について
日本民法が適用される結果、非嫡出子は母の氏を称し、母の親権に服する(民法七九〇条二項、八一九条四項)とされているが、これは、母子関係は分娩の事実により出生時より確定するのに対し、父子関係は非嫡出子の場合父親の認知により確定することによる帰結でしかなく、父子関係が母子関係に比較してその実質的結合関係が希薄であるとの根拠とはならない。非嫡出子が認知された後には、父の氏を称することも可能である(民法七九一条一項)し、父母の協議により父母のいずれをも親権者と定め得る(民法八一九条四項)。
また、そもそも民法七九〇条二項の規定は、母が外国人である場合には適用されないものである。
② 生活の同一性について
被控訴人のいう「実質的」親子関係の「実質的」とは、「生活の同一性」の意味で用いられているが、一般論としても「生活の同一性」と国籍取得は一致しておらず、「生活の同一性」は何ら国籍取得の差異を根拠づける理由となっていない。結局、被控訴人が「実質的」親子関係というのは、実際の「生活の同一性」ではない。
(4) 沿革上の経緯について
前記一1(一)記載のとおり、旧法(五条、六条)は、認知による国籍の伝来取得を認めていたところ、昭和二五年の改正によりこの規定が削除されたが、右改正の趣旨は、夫又は父母の国籍の得失に伴って当然に妻又は子の意思に基づかずその国籍の変更を生じることになっていたことが、憲法二四条の精神に合致しないとの理由によるものである。しかし、そもそも嫡出子や準正子については、子の意思にかかわりなく国籍が変動するのであり、これは血統主義を基本とする以上当然であり、子の国籍の独立は国籍の選択制度で事後的に保障されているのである。そうであれば、認知による国籍取得を認めても、国籍選択の制度によって、十分子の意思は尊重されるのであるから、右改正の趣旨に反することはない。しかも被控訴人は、児童条約を批准するなど、子供をめぐる国際情勢、社会情勢は、右の改正当時と比較して変化しているのであるから、現行法二条一号の解釈も改められるべきである。
(5) 母親の外国籍の取得について
非嫡出子の外国人母の母国が国籍取得につき生地主義を原則としている場合には、非嫡出子は、日本国籍を付与されないと無国籍になるおそれがある。重国籍の防止よりも無国籍の防止の方が遙かに重要であることは明らかである。従って、無国籍の可能性はできるだけ小さくなるよう解釈されるべきである。
(6) 簡易帰化について
簡易帰化(現行法八条参照)といっても、居住条件が緩和され、能力条件、生計条件が免除されているだけで、法務大臣の裁量には何ら限定はない。
また、帰化についての現行の実務では、家族がいる場合、家族ぐるみ帰化しか認めておらず、本件では控訴人が未成年であることから、母と一緒に帰化の申請をせねばならないことになるが、母については簡易帰化申請のための要件を満たさず、普通帰化の申請となり、その要件を満たす必要がある。したがって、控訴人についても簡易帰化が簡易帰化としての機能を果たさない取扱いとなっている。
(7) 現行法三条について
嫡出子と非嫡出子との間で国籍取得に差異を設けることをもたらす同条項は、社会的身分による差別として許されず、無効である。
また、諸外国の多数が、自己の意思によって外国国籍を取得した自国民に対し、自国国籍を喪失する旨の規定を置いているため、現行法三条による届出によって、準正子が母の国籍を喪失する可能性がある。
(三) B規約違反について
(1) B規約の直接適用可能性
憲法九八条二項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と定めており、日本が締約国となった条約は、公布とともに国内的効力を生じ、少なくとも法律より上位の地位を占めるというのが、政府、裁判所、学説に共通した認識である。
B規約二条三項(b)は、締結国は、B規約で定める権利を侵害された者に対して「救済措置を求める者の権利が権限のある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限ある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済の可能性を発展させること」を約束すると定めており、憲法九八条二項によって条約遵守義務を負っている裁判所はB規約についての判断をすべきである。
(2) B規約二四条一項、三項の違反
① まず、B規約二条一項は総則的規定として、条約上の個別的規定すべてに適用される。
国際自由権規約委員会(以下「B規約委員会」という。)は、一般的意見一八の一項において「差別の禁止はいかなる差別もない、法の前の平等と法律による平等の保障とともに、人権の保障に関する基本的かつ一般的な原則を構成している。従って、B規約二条一項によって、締約国は、自国内にあり、かつその司法管轄の下にある個人に対し、規約で認められる人権を、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的もしくは社会的出身、財産または出生等のいかなる理由による差別もなしに尊重し確保する義務を負う。」としており、締約国の負う義務は、差別をなくすための積極的措置をとる「確保する義務」なのである。
したがって、B規約二四条三項で保障する子どもの国籍を取得する権利は、原判決の言うように「主として無国籍児の一掃を目的としたもの」であるとしても、この規定は、B規約二条一項の定める無差別原則と結びついて適用されるものである。B規約二四条三項で保障する子どもの国籍を取得する権利は、子どもが無国籍となる場合にはじめて適用があるのではなく、子どもの国籍取得について差別があれば、条約との関連性、条約違反の可能性があるのである。
ウィーン条約三一条一項は「条約は文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる通常の用語の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」と定めるが、同ウィーン条約を起草した国連の国際法委員会のコメンタリーによれば、この規定には「実効性の原則」が内在しており、「条約にとって二つの解釈が開かれており、一方が条約に適切な効果をもたらすことを可能にし、他方がそうでない場合、信義誠実と条約の趣旨・目的は、前者の解釈を採用することを求めている。」としている。
② B規約委員会の一般的意見一七
一般的意見一七は八項で、二四条三項所定の子どもの国籍を取得する権利と無差別原則について、具体的に次のようにしている。
「児童に与えられる保護の文脈において、第二四条に定められたすべての児童の国籍を取得する権利に対しても、特別の注意が払われるべきである。この規定の目的は、児童が無国籍のために社会及び国により相対的に低い保護しか与えられないことを防止することにあるが、国に対しその領域内で生まれたすべての児童に国籍を与えることを必ずしも義務づけるものではない。
しかしながら、国は国内的にかつ他国と協力して、すべて児童が出生の時に国籍をもつことを確保するためのあらゆる適切な措置をとることを要請される。この関連で、国内法上、国籍取得に関するいかなる差別も、例えば、嫡出子と婚外子との間において、または親が無国籍の子どもとの間において、あるいは、一方又は双方の親の国籍上の地位に基づいては、許されるべきではない。」
③ B規約委員会のコメント
現在、日本の第四回定期報告書が出されているが、審議はいまだなされていない。
しかし、非嫡出子に対する差別については、B規約委員会は、日本の第三回定期報告書を審査し、一九九三年一一月四日の第一二九〇回委員会(第四九会期)においてコメントを採択し、次のようにコメントしている。
D項(主な懸念事項)
二 「当委員会は、非嫡出子に関する差別的な法規定に対して、特に懸念を有するものである。特に、出生届及び戸籍に関する法規定と実務慣行は、規約第一七条及び第二四条に違反するものである。非嫡出子の相続権上の差別は、規約二六条と矛盾するものである。」としている。
④ ヴェナーグレン委員(副委員長)の補足的質問
前記コメント採択に至るまでの審査の過程において、委員より、国籍に関してなされた補足的質問は次のとおりである。
「外国人の母から生まれる子に対して、日本人の父親が胎児認知しない場合において、子どもは日本国籍を取得しないことになります。また子どもの両親の国籍が全く知れない場合においても、同様のことが生じ、子どもは無国籍になります。このような子どもたちを助けるためにどのようなことをなしうるのでしょうか。規約二四条に注目したいのですが、子どもは保護される権利を有し国籍を取得する権利があります。」
⑤ ヨーロッパ人権条約、ヨーロッパ人権裁判所判決
ヨーロッパ人権裁判所は、非嫡出子に対する差別について、ヨーロッパ人権条約第一四条に関連する第八条の違反であると認定した(マルクス事件の判決)。
右判決の趣旨を本件に引き直すと、規約二四条三項は、子どもの国籍を取得する権利を規定してはいるが、日本人父と外国人母の間に生まれた生後認知された非嫡出子に生来的日本国籍を与えないことが、規約二四条三項の目的が原判決の言う無国籍児の一掃であって、単独での規約二四条三項の違反とはならなくても、これと、規約二四条一項が結びつくことによって、規約二四条一項と結びついた規約二四条三項の違反となる、ということになる。
(3) 原判決の判示とB規約
このように、B規約の締約国である被控訴人は、規約二条、二四条一項、三項によって「子どもの国籍を取得する権利について出生による差別をしてはならない」のであり、「嫡出子と非嫡出子の差別のない子どもの国籍取得の権利」を確保する義務を負うのである。
ところが、原判決は、右の解釈適用を誤り、その結果、B規約の右各条につき何らの判断をしていないという誤りを犯しているものである。
(四) 児童条約違反について
(1) 児童条約も、裁判所において直接適用可能であることについては、B規約について前述したところがそのまま該当する。そして、児童条約四条は「締約国は、その条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。」と定めており、ここにいう「その他の措置」には、当然司法上の救済が含まれるというべきであるから、裁判所は、児童条約違反について、具体的に検討した上で判断をなすべきである。
(2) 児童条約二条は、「締結国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又はその他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。」(一項)、「締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。」(二項)と定めている。
右規定は、非嫡出子に関する直接・具体的な規定ではないが、その制定過程から見て、非嫡出子に対する差別的取扱いを禁じたものであることは明らかである。
そして、七条では、「児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有する」(一項)、「締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、一項の権利の実現を確保する」(二項)と定めている。
したがって、二条と併せれば、国籍取得に関して非嫡出子を差別することは本条約に反するものであるといわざるを得ない。
(3) 児童の権利委員会(CRC)も、かかる見地に立つことは、同委員会に提出されたイギリス政府の報告書をめぐる論議にも如実に表れている。
(4) 以上のように、本件の国籍取得制限は、児童条約二条、七条に反するものであるにもかかわらず、原判決は、これらの規定の解釈適用を誤り、右の点につき何ら判断をしていない。
三 被控訴人の主張
1 控訴人の認知の届出は出生後になされたのであるから、控訴人と父山本との父子関係は出生後成立したものである。しかも、認知の遡及効は親族法上のものであり、国籍法上は、以下の理由により、認知の遡及効は認められない。したがって、控訴人には現行法二条一号は適用されない。
(一) 国籍の浮動性について
出生はすべての国の国籍立法において国籍取得の最も普遍的な原因とされているところ、このような生来的国籍は、原則として出生の時点において、できる限り確定的に決定されるべき性質のものである。これは、国籍が公法上の権利義務にかかわるばかりではなく、私法上の権利義務についても国籍を基礎として形成されることが多いことに由来する。したがって、出生後の認知により、子が出生の時点にさかのぼって生来的に日本国籍を取得するとなると、子の国籍が父の認知があるまで不確定なものにならざるを得ず、非嫡出子はいつもこうした不安定な地位に置かれ、国家にとっても本人にとっても好ましくない結果を生むことになるので、認知の効果を遡及させることは妥当でない。
(二) 二重国籍の防止
人は、必ず国籍を持ち、かつ唯一の国籍を持つべきであるという「国籍唯一の原則」は国籍立法上の理想であり、世界各国も重国籍の防止及びその解消のための努力をしているのである。我が国においても、重国籍の防止及びその解消のための制度を採り入れているところである。したがって、本件のように、母が外国人であることによって子が外国国籍を取得しているとき、子が出生のときにさかのぼって日本国籍を取得することになると、外国国籍と日本国籍との二重国籍を有するという不都合な事態を生じさせることになる。このような事態を生じさせてまでも認知の遡及効を認める合理性はない。
(三) 立法上の経緯
前記一1(一)記載のとおり、旧法では、日本国民である父による認知に基づく伝来的国籍の取得が認められていたが(国籍取得の時期は認知の時であった。)、子の意思にかかわりなく当然に国籍の変動を生じさせることは、憲法二四条の精神に合致しないと考えられたため、昭和二五年の改正により削除されたものである。この改正の経緯からしても、現行法の下では、子の出生後に日本国民である父が認知した場合、子が日本国籍を取得しないことは明らかである。
(四) 現行法三条の存在
現行法三条との対比からしても、出生後に日本国民から認知された子が、その認知のみによって遡及的に日本国籍を取得することはあり得ない。
2 右のように解すると、現行法は、嫡出子の場合と非嫡出子の場合とで、その国籍の取得に差異をもうけていることになるが、これは合理的な理由を有するものである。すなわち、現行法は、同じく血統上日本国民の子であっても、すべてに日本国籍を付与することなく、出生時点における法律上の親子関係の有無により、国籍取得の有無を決しようとしている。これは現行法が、血統という単なる自然的・生理的要素を絶対視せず、親子関係を通じて我が国と密接な結合が生じる場合に、国籍を付与するとの基本的政策に立脚しているからである。ここでいう親子関係を通じて我が国との密接な結合が生じるというのは、子が日本国民の家族に包含されることによって日本社会の構成員になることを意味する。したがって、国籍の付与に当たってこのような事情を考慮することには合理性があるというべきである。このような観点からすると、日本国民の嫡出子の場合には、当該日本国民が父であるか母であるかを問わず日本国籍を付与するのが適当ということになるが、非嫡出子の場合は、婚姻家族に属していない子であり、嫡出子と同様の親子の実質的結合関係、換言すれば、生活の同一性が生じるとはいい難い。そして、非嫡出子の父子関係は、通常母子関係に比して実質上の結合関係、換言すれば、生活の同一性が極めて希薄である。こうしたことから、日本国民の父の非嫡出子の場合、原則として出生による日本国籍の取得を認めないこととしたのである。
また、非嫡出子間において、父が出生前に認知するか出生後に認知するかで現行法上国籍の取得に差異が生じるが、出生前に父から胎児認知されている場合には、通常出生後に認知される場合とは実質的な父子関係の結合の度合いが異なることを考慮すると、このような差異は合理的な理由に基づくものであるというべきである。
なおB規約二四条や児童条約二条及び七条は、全世界から無国籍者を一掃することを目指したものであり、非嫡出子に対してまで国籍取得の権利を保障したものではない。
四 争点
1 現行法二条一号の解釈
2 憲法一四条、B規約二四条、児童条約二条及び七条適合性
第三 当裁判所の判断
一 現行法二条一号の解釈について
現行法二条一号に「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」と規定されている「父又は母」とは、法律上の「父又は母」をいうものと解されること、そして、日本人父と外国人母から生まれた子が非嫡出子である場合には、法律上の父子関係の成立のためには認知が必要であることは、第二の一1(二)に記載したとおりである。
控訴人は、認知の効果については、民法上出生の時にさかのぼってその効力を生じると規定されているところであるから(民法七八四条)、国籍法上も同様に解すべきであり、本件のように子の出生後に父による認知がなされた場合も「出生の時に父が日本国民であるとき」に該当すると主張する。
しかしながら、前記第二の一1(一)でみたように、旧法には、生後認知を含め、出生後の身分行為による国籍の伝来(事後的)取得の規定が置かれていたが、右規定は昭和二五年の新法制定により全面的に削除された上、昭和五九年改正による現行法では、準正による国籍の取得についての規定(三条)が新設されたのである(控訴人は、右規定は嫡出子と非嫡出子との間で国籍取得に差異を設けることをもたらすから、社会的身分による差別として許されず無効であると主張するが、右三条の規定自体には何らの無効事由はなく、右主張は理由がない。)。右の準正は、父母の婚姻と父による認知とを要件とするものであるから、控訴人の主張するような解釈論を採ると、右の三条の規定は無意味な規定ということにならざるを得ない。したがって、右のような国籍法改正の経緯及び現行法三条の趣旨からすると、現行法は、胎児認知はともかくとして、(生後)認知そのものを日本国籍取得事由とはしていないこと、すなわち、国籍法上は、認知の効果を遡及させないとの立場を採っていることは明らかである。準正による国籍取得を届出の時からとし(三条二項)、帰化による国籍取得を官報における告示の日からとし(一〇条二項)て、出生による国籍取得と区別していることからも、国籍法全体の趣旨として、出生による国籍取得について、浮動性防止の考え方が採られているといえる。
よって、控訴人の主張は採用することができない。
二 憲法一四条等との適合性について
現行法二条一号を右のように解すると、日本人父と外国人母との間の非嫡出子については、認知により法律上の父子関係が生じているにもかかわらず、日本国籍を取得できないということになり、嫡出子との間で取扱いに区別が生ずる上、非嫡出子同士の間でも、胎児認知の場合と出生後認知の場合とで区別が生ずることになることは、控訴人が指摘するとおりである。
控訴人は、右の区別をもって憲法一四条等に反する不当な差別であると主張するが、控訴人の右主張を採用することはできない。その理由は、次のとおりである。
1 日本国民の要件、すなわち国籍をどのように定めるかについては、憲法自身が法律に委ねているところであって(憲法一〇条)、これをどのように定めるかは、優れて高度な立法事項であり、立法府の裁量の余地が大きいものというべきである。しかしながら、右の法律(国籍法)を定めるに当たっては、憲法の他の諸規定と抵触しないように定めるべきであることも当然であって、これを憲法一四条の平等原則との関係でいえば、国籍法の中の規定が右の平等原則に照らして不合理な差別であると認められる場合には、右の裁量の範囲を逸脱したものとして、その効力は否定されなければならない。
2 国籍の得喪に関する立法は、各国家の国内管轄事項である(国籍は国内法によって付与される。)とされており、どのような個人に国籍を認めるかについては、その国家の沿革、伝統、政治経済体制、国際的環境、外交政策等の要因に基づいて決せられるところであり、出生による国籍の付与に関する血統主義又は生地主義のいずれを採用するかもその国の選択に委ねられるが、いずれの主義を採るにしても、国籍の積極的抵触(重国籍)及び消極的抵触(無国籍)の発生を可能な限り避けることが理想とされている。
この点に関し、控訴人は、現行法が父母両系血統主義を採用し、国籍留保制度や国籍選択制度を設けていること等を理由に、現行法は重国籍を容認する方向にあるとするが、現行法においても、従来から規定されていた帰化を許可するための要件としての重国籍防止条件(五条一項五号)、自己の志望による外国国籍取得による日本国籍の喪失(一一条一項)、国籍離脱の制度(一三条)を引き継ぐとともに、新たに従来の国籍留保制度を拡大し(一二条)、また、外国国籍を有する日本国民が外国国籍を選択したときは、自動的に日本国籍を喪失することとし(一一条二項)、さらに、国籍選択制度を導入する(一四条ないし一六条)等、重国籍の防止、解消のため様々な規定を設けていることに照らすときは、現行法が重国籍防止の考え方を放棄したということはできない。
また、出生は、すべての国の国籍立法において、国籍取得の最も普遍的な原因とされているところ、このような生来的国籍は、被控訴人が指摘するとおり、出生の時点においてできるだけ確定的に決定されるべき性質のものであること(浮動性の防止)は否定できないところである。民法七八四条は認知の遡及効を認めているが、国籍は選挙権や公務就任等の公法上の権利義務の取得にもかかわるものであるから、私法規定である右法条を直ちに類推適用することはできないというべきであるし、また、右法条適用による不都合回避のための同条ただし書の適用や適用対象を未成年に限定することについても、明文もなくしてこのような限定的適用を認めるのはいかにも便宜的にすぎるし、いずれにしても民法七八四条を根拠とする国籍の出生時にさかのぼっての生来取得を認めることはできないというほかはない。
なお、控訴人は、現に被控訴人も、日本人父と外国人母の間に嫡出子として出生した子どもについて、後に嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴えによって嫡出性を喪失すれば、その子どもの出生の時期にさかのぼって日本国籍を喪失させる取扱いを行っていると主張するところ、右は訴訟による判決の結果に基づくという、いわば特別の場合のことであって、そのことから直ちに被控訴人が一般的に国籍の浮動性を容認しているということはできない。
3 我が国の国籍法の沿革は、前記第二の一1(一)でみたとおりであるが、昭和五九年に改正された現行法の概要は次のとおりである。
同年の改正の主眼点は、新法が旧法以来採っていた父系血統主義を改めて父母両系血統主義を採用したことである。その改正理由としては、① 新法制定以後、日本の国際化が大幅に進み国際的な人的交流が活発化したこと、② 従来父系血統主義を採っていた西欧諸国等が次々と父母両系血統主義に改めたこと、③ 昭和五四年に国連総会で採択された「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備えること等が挙げられる。なお、父系血統主義の立法目的の一つに重国籍の防止ということが挙げられるが、多数の国において父母両系血統主義が採用されるにつれて、右の目的を達することが困難になったことも指摘されている。
右のように、出生による国籍の取得(生来的取得)について、父母両系血統主義を採用したこと(二条一号)に伴い、準正による国籍取得制度の新設(三条)、帰化条件の整備(五条、七条、八条)、国籍留保制度の整備(一二条)、国籍選択制度の新設(一一条、一四条、一五条、一六条)等の改正がなされた。
4 前記第二の一1及び第三の一でみたように、現行法二条一号は、日本人父と外国人母との間の非嫡出子については、胎児認知の場合を除き、出生後の認知による日本国籍の取得を認めていないのであるが、このような者のうち、三条の準正による取得の要件を満たす者は、届出により事後的(伝来的)に日本国籍を取得することができるものとされているし、また、右の要件を満たさない者であっても、出生後の認知により日本人父との間に法律上の親子関係が生じた者は、簡易帰化による日本国籍の取得の道が開かれている(八条)。
前記2、3で判示したところを踏まえて、これらの規定を総合的に考察すると、現行法は、血統という単なる自然的・生理的要素を絶対視することなく、親子関係を通じて我が国との密接な結合関係が生ずる場合に国籍を付与するとの基本的立場に立っているものということができる。親子関係を通じて我が国との密接な結合関係が生ずるのは、子が日本国民の家族に包含されることによって日本社会の構成員になることによるものであるから、日本国民の嫡出子については、当該日本国民が父であるか母であるかを問わず、日本国籍を付与するのが適当ということになる。これに対し、非嫡出子の場合は、婚姻家族に属していない子であり、あらゆる場合に嫡出子と同様の親子の実質的結合関係が生ずるとはいい難く、嫡出子とは別個の考慮が必要である。現に民法上、非嫡出子は、母の氏を称し(民法七九〇条二項)、母の親権に服する(民法八一九条四項)ものとされていることからも明らかなとおり、父子関係は、通常母子関係に比較して、実質的な結合関係(これを生活の同一性と言い換えることもできよう。)が希薄である。控訴人は、認知のあった後は、氏については家庭裁判所の許可を得て、父の氏に変更することができる(民法七九一条一項)し、親権については父母の協議によって父を親権者とすることもできる(民法八一九条四項)から、非嫡出子の父子関係が母子関係に比して実質上の結合関係が希薄であるとはいえないと主張する。しかしながら、非嫡出子が認知により、当然には父の氏を称せず、また、父の親権に服さないとされていることをみても、やはり非嫡出子の父子関係は母子関係に比して希薄であるといわざるを得ない。もっとも、民法七九〇条二項は、母が外国人である場合は適用されないとしても、そのことから直ちに、嫡出子と非嫡出子の区別を考えるに際し、民法七九〇条二項について論じる意味がなくなるわけではない。なお、胎児認知は、懐妊中の子が自分の子であることについて確信があり、かつ、これを子の母も承諾しており、その上で、子の出生を待っていたのでは間に合わないような緊急事態の場合や又は出生を待つまでもなく自分の子であることを認める必要がある等何らかの事情がある場合になされるものであるが、他方、生後認知では、自分の意志によらずに子又はその直系卑属らの請求により裁判で認知を強制されることもあり得るのであって、この両者の間には、一般的に実質的な父子関係の結合の度合いが異なるといわざるを得ないものがある。また、前記三条の準正子の場合は、父母の婚姻によって嫡出子たる地位を取得したことにより、親子の実質的結合関係の存在が明らかとなったといい得る。このように現行法は、右の親子関係の差異に着目し、親子関係が希薄な場合の国籍取得について、段階的に一定の制約を設けたものと解することができる。
また、控訴人は、生後認知により日本国籍を付与するのが憲法上からもあるべき姿であると主張するのであるが、これについては、現に昭和二五年の法改正で認知による国籍の伝来的取得制度が廃止されたのをみても分かるとおり、父の認知という一方的行為により非嫡出子本人及び母の意見に関係なく国籍が付与されることになるため(これにより現に有している外国国籍を喪失することも起こり得る。)、個人の尊厳をうたっている憲法二四条の精神にも反するとの反対意見もあり得るのであって、ここは、正に立法府の裁量が働くところであり、控訴人のように、現行国籍法は憲法に違反しており、旧法で認められていたように認知により伝来的に日本国籍を付与することこそが法の正義にかなうものであると直ちに言い切ることはできないというべきであろう。
5 以上で検討したところを綜合すると、右の現行法の基本的立場は、現今の国籍立法政策上合理性を欠くものとはいえず(控訴人は、外国人母の母国が国籍取得につき生地主義を原則としている場合には日本国籍を付与されないと無国籍になるおそれがあるというが、右の一事をもって、現行法の基本的立場が立法政策上合理性を欠くとはいえない。)、このことに準正による国籍取得(控訴人は、三条による届出によって準正子が母の国籍を喪失する可能性があるというが、二重国籍が望ましくないものである以上、やむを得ないことである。)や簡易帰化(控訴人は、本件の場合には、簡易帰化の制度にはあまり期待できない旨をいうが、帰化の要件が緩和されているのは間違いがなく、その点からしても同制度の存在意義は十分是認しうるところである。)等の補完的な制度を具備していることも併せ考慮すると、現行法が一部の非嫡出子について控訴人が指摘するような取扱いの区別をもうけたことには、合理的な根拠があるものというべきであって、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできない。したがって、右の区別は、憲法一四条の平等原則に照らして不合理な差別ということはできないし、また、同法二四条に違反するということもできない。
6 控訴人の主張2(三)、(四)について判断する。
(一) B規約二条一項、二四条一項、三項の条文からは、B規約が無国籍児の一掃を目的としていることは明白であるものの、無国籍児の発生とは関係なしに(無国籍児が発生する場合ではなくても)、国籍取得における非嫡出子差別をも無効とする趣旨であるかは必ずしも明らかでない。また、B規約委員会の一般的意見一七の八項(甲一七1、2)も、国籍取得における非嫡出子差別は無国籍児の発生をもたらすおそれがあり、B規約二四条三項に違反する旨を示しているといえるが、無国籍児の発生と関係なしに(無国籍児が発生する場合ではなくても)、国籍取得における非嫡出子差別を違反とする趣旨までも含んでいると解することができるかについてはなお疑問があるといわざるを得ないものがある。
ちなみに、B規約委員会の一般的意見や各国政府よりの報告書に対する意見は、締約国の国内的機関による条約解釈を法的に拘束する効力は有しないものであり、もとより我が国の裁判所による条約解釈を法的に拘束する効力は有していない(ましてや、控訴人主張のヨーロッパ人権条約に関するヨーロッパ人権裁判所の判決が我が国の裁判所の解釈を法的に拘束するものではない。)。
(二) 児童条約二条二項にいう「地位」は、「活動」及び「信念」と同列のものとして「表明された意見」とともに追加されたという立法経緯がある(甲三二)ことに照らすと、これは、父母が特定の政党のメンバーであるというような「政治的・社会的地位」を意味すると解すべきであり、父母が「正当な婚姻関係にあるか否か」といった「身分(親族)的地位」を指すと解するのは、いささか無理であろう。その意味では、少なくとも同条同項との関係では、嫡出・非嫡出の違いは問題にならないと考えられる。
次に二条一項についても、非嫡出子に関する直接、具体的な文言を欠くところから、その趣旨ないし適用範囲は必ずしも明らかではないところ、その制定の経緯(甲三二ないし三五の各1、2)に照らすときは、日本法上においても、例えば法定相続分等の民事法関係における嫡出子と非嫡出子との取扱いの違いが、合理的な区別であるか否かは問題となる可能性はあるものの、国籍取得における嫡出子と非嫡出子との取扱いの違いについてまで、右二条一項が規定していると直ちに解することはできない。
また、七条一、二項は専ら無国籍児の一掃を目的としたものと解される。
よって二条及び七条を併せても、国籍取得に関して非嫡出子を嫡出子と区別することが右条約に違反するということはできない。
ちなみに、控訴人主張のイギリス政府の報告書に対する児童の権利委員会の最終所見における解釈は、締約国の国内的機関による条約解釈を法的に拘束する効力を有しているものではなく、もとより我が国の裁判所による条約解釈を法的に拘束する効力を有しているものではない。
(三) 以上のとおり、控訴人主張2(三)、(四)は理由がなく、B規約二四条、児童条約二条、七条等控訴人主張の条約は、いずれも、少なくとも無国籍児ではない控訴人に対して憲法一四条を超えた利益を保護するものということはできない。
三 よって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却する。
(裁判長裁判官福富昌昭 裁判官古川正孝 裁判官塩川茂)